当院の内視鏡洗浄方法について

患者さまから「胃カメラ、大腸カメラを受けに行きたいのだけれど、この時期だし、どうやって消毒しているのか、ちょっと気になっていて」と相談がありました。院長とベテラン看護師さんとが答えています!是非ご覧ください。


まず根本的な疑問ですが、胃カメラと大腸カメラというのはどの施設でも消毒して使いまわしているのですよね?


そうですね。内視鏡は1本ウン百万円しますので使い捨てにはとてもできません(笑)。当院では内視鏡はガイドラインや内視鏡洗浄のてびき注1)をもとに洗浄消毒しています。ただ、それ以外の使い捨てにできるもの、例えばマウスピースや胃や大腸の粘膜に刺す内視鏡注射針、ポリープにひっかけ摘出するスネアなど、当院では全て使い捨てにしています。他の医院では再利用されているところもありますが、使い捨てのものは当院では再利用は致しません。


今回の新型コロナウイルスの感染拡大をうけて、これまでの胃カメラ、大腸カメラの消毒方法は変わったのですか?


変わっていません。もともとガイドラインに沿って内視鏡消毒を行えば、患者さまが持っているかもしれない菌やウイルスに対して、網羅的に対応ができるようになっています。新型コロナウイルスよりも感染力の強いウイルスや消毒薬が効きにくい菌を普段から扱っている消化器・内視鏡内科としては、内視鏡の消毒をしっかりすることは日常的な作業です。当院では胃カメラ検査当日予約ができるようになっていますが、感染症の有無が分からない患者さまの検査がすぐ行えるのは、自信をもった内視鏡の消毒技術があるという事を示しています。


消化器の内視鏡消毒で特に気を付けている菌やウイルスはどういうものですか?


微生物には、消毒薬で容易に死滅するものと死滅しにくいものがあります。
とても死滅しにくいものは、偽膜性腸炎の原因菌となるクロストリジウムディフィシルなどです。この菌は非常に硬い殻(芽胞)でつつまれていて、熱処理でも毒がのこります。1,000ppm相当の次亜塩素水に5分間つければ殺芽胞効果を示すと言われていまして、幸いこれまで内視鏡で伝播した事例はないと言われています。ただ消毒薬だけに頼れない菌なので、物理的にしっかり手で内視鏡についた菌を洗い落としていきます。

次に、少しだけ死滅しにくいものには、ピロリ菌、非エンベロープウイルス(ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルス)になります。ピロリ菌は内視鏡で伝播してしまったという事例が以前学会で報告されました。その原因は内視鏡チャンネル(器具を出し入れする穴)のブラッシングを怠ったからだと言われています。この菌は胃の中のPHが非常に低い状態で生きている菌ですので、消毒液にも抵抗性です。このため、この菌に対しても専用のブラシを何本も使ってしっかりゴシゴシ洗います。またノロウイルスなどは極少量10100個ほどのウイルス量で感染が成立してしまいます。ノロウイルスの人がお風呂に入るとき、お尻を軽く洗って湯船に入ると、次にお風呂に入った人に感染させてしまうほどです。しかもアルコール消毒も効かないやっかいなウイルスです。これらは力価の強い次亜塩素酸水を使い、ウイルスを一つも残さない消毒をします。

消毒薬で容易に死滅できるものには、エンベロープウイルスであるコロナウイルスインフルエンザウイルス、HIVウイルスなど。これらはアルコールや通常の次亜塩素でウイルスの膜が容易に破壊され死滅します。またコロナウイルスは普通の洗剤でも不活化させることができます(注2)。

これらの全て菌やウイルスに対して一回ずつ網羅的に消毒していますので、新型コロナウイルスに対して特別な消毒を加える必要はないと現時点では考えています。


コロナウイルスよりも消毒薬が効きにくい菌やウイルスがとても多いのですね。
そして手で内視鏡を洗うのが意外に大事になるのですね?


そうです。唾液や腸液というのは多くのタンパク質があり、乾燥するとこびりついてしまうのです。当院ではとにかくすぐに洗浄に取り掛かれるような設計にし、検査が終わると同時に行っています。狭いバケツのようなシンクでお湯を溜めたまま洗っていた施設で、O-157が感染したという事例が報告されたことがありました。このためガイドラインでも大きな深いシンクを使って温水を流しながら洗浄するようにと書かれています。


色々なクリニックや病院で勤務し、中にはシンクの高さが低すぎたり狭すぎたりして、手に力が入らず洗うのに苦労する医院もありました。でもここはとても大きく深いシンクで大変洗いやすいです。特に大腸カメラは胃カメラよりスコープが長いので洗浄に神経を使いますが、ゆったりサイズなのできちんと洗えます。ほんの少しの違いですが感染症を防ぐために、細部まで考えているんだなと感じています。


内視鏡はどのような構造で、どこを消毒できるのでしょうか?


内視鏡は患者様に挿入する部分(挿入部)と、内視鏡を操作する(操作部)と、モニターに映像を送るためのチューブの部分(コネクター部)の3か所に分けられます。全て丸洗い消毒します。


具体的な手順を教えてください。


まず手洗い洗浄です。目に見える大きな組織や血液など、タンパク質を分解しやすい酵素洗剤と35~40℃の温水を使用して内視鏡表面をスポンジなどで洗浄していきます。酵素洗剤は高価であり、中性洗剤で洗う医院もありますが、たんぱく質が落ちにくく危険です。鉗子などを挿入するチャンネル部に専用のブラシを挿入して洗います。内視鏡に付属するボタンや栓は全て外し、それぞれ細かいブラッシングと揉み洗いをします。その後、すべてを洗浄液に30分充分に浸漬し、大量の蒸留水ですすぎます。

次に内視鏡本体を内視鏡洗浄機にいれます。内視鏡の内側までしっかり消毒液が巡回するようセットします。ここで使用する消毒液は強酸性電解質(力価の強い次亜塩素酸水)注3)です。この洗浄機は、消毒液の循環の前に、機械内で有機物を徹底的に取り除いてくれます。これは、消毒液をPH2.4前後と強酸性に維持し、次亜塩素水の効力を最大に引き出すことに繋がります(空気中では刺激の強い揮発物質が出るため、このPHにはできません)。これでノロウイルスや芽胞形成の細菌など、消毒薬が効きにくい微生物も殺菌できます。言うまでもなくコロナウイルスは瞬時に存在できなくなります。この強酸性電解質は消毒に使用された後には中和され人体に無害になりますが、これは実は大事なことです。中和されない消毒液が内視鏡に残っていると、咽頭炎や大腸炎をきたす原因にもなります(注4)。次に機械内ですすぎをし、その後内視鏡を乾燥させます。乾燥には純度の高いアルコールを使用します。内視鏡内に循環させ、水分を科学的に蒸発させます。結核菌などの抗酸菌の最終消毒にも有用な方法です。今はこの作業を省く医院もあるようですが、自然乾燥では水分が残り雑菌が繁殖する恐れがありますし、スタッフ皆がアルコールを補充してくれたので、当院では現在も行っています。

洗浄機から出したらすぐに内視鏡保管庫に入れます。この保管庫も菌の繁殖がないよう特別設計されているものを使っています。実は専用の保管庫がない医院も多いです。


ガイドラインに沿って洗浄消毒すれば問題ないと感じました。全ての医院がこのガイドラインに沿って消毒していると考えていいのでしょうか?


多くの医院がほぼガイドラインに沿っていると思います。 ガイドラインは他にも、内視鏡に付属する部品の消毒方法、内視鏡室全体の消毒方法、医療者一人ずつの感染防御についてなども書かれています。

特に細かい部品の消毒については、各医院で異なるところと思いますが、当院では汚れを手洗いで充分落とし、洗浄液に充分浸漬、さらに超音波洗浄機機でミクロの汚れを落として、最後に高圧蒸気滅菌機にいれています。これは大変手間も時間もコストもかかることですが、しかし部品は細かく、凹凸もたくさんありますし、ガイドラインで推奨されていることですので必ず行っています。

またガイドラインには載っていないことですが、内視鏡モニターに透明ビニールシートをかぶせ、患者さま御一人ごとに交換しています。唾液や腸液が飛び跳ねてモニターに飛んでいくことはほぼ無いと思っていますが、ふき取りに時間がかかるキーボード等もありますので、そのようにしています。また内視鏡に塗る潤滑ゼリーがありますが、当院では患者様御一人分を完全にわけて使用しています。さらに
内視鏡施行直前に新しいサージカル手袋をつけますが、これも充分に消毒してから内視鏡を把持しています。ガイドラインに沿いながら、更なる医院ごとの工夫で感染対策が成り立つと考えています。


ガイドラインにプラスアルファの工夫をしているということですね。
胃カメラは飲み込めず咳払いが起きて医療者がコロナウイルスに感染するリスクがあるとされて、今の時期には断る内視鏡医がいると聞いています。


当院ではそのようなことはありません。眠っている間に全て終了しておりますので、咳き込む危険や無駄に唾液が垂れてしまったりすることはほぼありません。さらにスタッフは防御服、サージカルマスク、フェイスシールドを常時行い、医療者への感染、また医療者から患者様への感染が無いようにしています。もちろん検査終了後に使用したすべての機器、デスク、棚、床、ベッドなどを念入りに消毒してから、次の患者さまに入室頂いておりますが、それはコロナウイルス対策に限ったことではありません


手間も時間もかけながら、色々な感染のリスクから患者さまを守っていることが分かりました。


過度に不安にならず、必要性を感じれば内視鏡検査を受けに来て頂きたいです。

安心・安全の つくしの駅前内視鏡クリニックで検査

上記の内視鏡洗浄消毒はもちろんですが、安心して受診頂けるよう、内視鏡検査専門のクリニックとして細部にわたって様々な工夫を凝らしております。≪鎮静剤を用いた検査≫はもちろんのこと、≪24時間WEB予約≫・≪土日検査≫・≪胃カメラ大腸カメラ同日検査≫・≪口から下剤を飲まない大腸カメラ≫・≪女性患者さま限定の検査日≫なども設けました。ご希望の方は気軽にご連絡をお願いします。
※現在コロナ感染が蔓延しており感染予防のため、検査のために来院が必要な胃カメラ・大腸カメラ以外の患者さまはオンライン診療をお勧めしております。ご協力のほどお願いします。


(注1)当院で用いている強酸性電解質を用いた内視鏡洗浄のてびき 
(注2)北里大学 大村先生の研究所発、洗濯用の洗剤でもコロナウイルスの不活化はできる
(注3)強酸性電解質と菌やウイルス
(注4)刺激の強い消毒液(細胞毒性が強く、揮発による咽頭刺激や直接接触による皮膚炎・化学熱傷、飛沫による角膜障害、化学肺炎、アナフィラキシーショックなどが報告されている)当院では採用しておりません。

中の図は 「内視鏡の洗浄・消毒に関するガイドライン(第2版)日本消化器内視鏡技師会安全管理委員」 からお借りいたしました。

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